遠州流茶道から学ぶ人間力

これは、しがく新聞4月号のコラムです。

■リード
私は様々な方から一見経営とは関係の無いような勉強会・習い事を紹介される。政治家の朝食会、歴史の書籍の輪読会、ゴッホや浮世絵について、マジックに居合道…。そんな私が茶道を学び始めたきっかけも、やはりお世話になっている経営者からの紹介だった。今回は茶道を通して学んだことをお伝えしたい。

■本文
この春、遠州流茶道の直弟子として、準師範のお許しをいただけることになった。遠州流茶道とは、江戸時代初期の大名であり、総合芸術家の小堀遠州を流祖とする、日本を代表する武家茶道である。四三〇年もの歴史があり、特徴は「綺麗さび」と言われる、作法や道具の美しさである。「主人は客の心になれ、客は主人の心になれ」という教えのもと、常に相手の立場に立つことを大切にしている。
「ご機嫌よろしゅうございます」。最初のご挨拶はこの言葉から始まる。最初は舌を噛みそうな感じがして窮屈だった。きちんと正座をし、小堀宗実家元にご挨拶をする。今でも一番緊張する場面である。続いて、大奥様、若奥様、先生方、皆様とご挨拶をする。九十歳を超える大奥様のご挨拶を受けたとき、自分はここまで丁寧に心を込めて人にご挨拶をしてきただろうかと恥ずかしい気持ちになったものだ。相手の目を見て、心を込めてゆっくりとご挨拶をする。別れを惜しむようにゆっくりと席を立つ。日頃から意識をしていきたいと思った。
最初に学ぶのは、お菓子やお抹茶のいただき方だ。一つひとつに無駄な動きがなく、全て意味がある。お抹茶をおいしくいただくために、甘い和菓子をいただく。その後でお抹茶をいただくと、和菓子の味がより一層引き立つ。お菓子をいただく前は隣に「お先にいただきます」、自分が最後の方なら「ご相伴させていただきます」と声をかける。シンプルだが、普段、周りの方にこのような気配りができているだろうかと考えさせられる。

茶碗には正面があることをご存じだろうか。必ず茶碗の正面が自分の方を向いて出てくる。いただくときは、茶碗の正面に口をつけることを遠慮し、横にずらしてお抹茶をいただくのが作法だ。茶道でよく、茶碗を回しているように見える仕草は、実は茶碗の正面を外すためにしているのだ。何とも日本人らしい仕草ではないか。
床の間に飾る掛け軸やお花にも、必ず意味がある。主人が客を想って準備をし、客からの質問を楽しむように会話をする。お花一つ飾るのにも、十本程度の中から一番良いものを選ぶ。自分は、お世話になっている方に何かを差し上げるとき、果たしていくつの候補から選出しているのだろうかと反省させられる。
茶碗、茶入れ、茶杓など、時には古いもので四百年前のものを拝見できる。自分の袱紗を下に引き、なるべく畳から上に持ち上げないようにかがんで拝見する。お点前のときもそうだが、ゆっくりと丁寧に扱う振る舞いを目の当たりにしたとき、四百年前のお道具が残っている理由がわかった。
人に会った時のご挨拶、周りの方々への配慮、物の扱い方、事前準備など、お稽古で感じたことを実践してきた。するとどうだろう。身の周りの物が壊れにくくなり、トラブルや嫌なことが減った。人間関係もさらにスムーズになった。今や茶道は海外でちょっとしたブームだそうだが、私は外国人の前に多くの日本人に茶道の素晴らしさを学んでもらいたい。茶道を伝えていくことで、心の豊かさを持った日本人をもっと増やしていきたい。

 


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