これはしがく新聞12月号のコラムです。
■リード
当社の就職支援事業「プレミアムスタイル」での話。大学生向けに開催している就職塾にて、ある学生さんから「理想の経営者とは?」という質問をいただいた。マスコミに取り上げられるような、短期間で業績をV字回復する敏腕経営者が果たして理想の経営者なのか。今回は、私が考える理想の経営者像についてお伝えしたい。
■本文
新社長就任後、わずか一年で黒字化!業績がV字回復!ある日、そんなニュースが流れていた。新たな経営者による奇跡の黒字化ということなのだろう。しかし、その中身が本当に賞賛に値するものばかりなのか、疑問に思うことがある。効率化や合理化、高収益と、一見都合の良い言葉を並べ立て、裏ではコツコツ努力してきた人を何千人も切り捨ててはいないか。大勢の人を不幸にしておいて、一部の人だけが潤っている状況はおかしいと思う。私は「V字回復」「急成長」ほど、怪しいものはないと思っている。一気に業績を上げる人ほど、マスコミや投資家は注目するが、私には自分の玄関先を綺麗にするために、近所を汚しているように見えるのだ。
数年前、ある急成長している証券会社の経営者の講演を聴く機会があった。年間何十億円もの利益を出している企業だ。社員数の推移を聴き驚いた。毎年削減を続け、ついには八十名まで減らしたという。ITを導入し、人件費を減らして高収益を達成中とのことだ。周りの受講者は感心してメモをとっていたが、私は何かが欠落している気がした。経営者の役割は、一般的に言えば、利益を生み出し、納税を果たした上で、株主に還元することだ。ただ、それだけではなく、社員を雇用するという責任を負っているのではないか。残念ながら、その経営者からは、とにかく自分の力を誇示したいという気持ちが見え見えで、雇用する側の責任など感じることはなかった。
近江商人の教えで「三方良し」という考えがある。「売り手よし、買い手よし、世間よし」という自分本位ではない商売のあり方を指す言葉だ。かつて、渋沢栄一をはじめ数多くの経営者が日本の未来のために頑張ってきた。真面目に働き、納税をし、寄付をしてきた。後藤新平は言った。「財を遺すは下。事業を遺すは中。人を遺すは上なり。されど財無くんば事業保ち難く、事業無くんば人育ち難し」
今の世代の経営者は、先輩経営者に感謝し、後輩経営者の見本となり、未来の日本のために何を残すかを真剣に考えるべきだ。
新宿に本社のある大手警備会社と親しくさせていただいている。そこで会う社員は、皆が凛としており、業績も堅調に伸びている。経営者も大変立派な方だ。警備員のアルバイトから育て上げ、幹部にまで登用する指導力は流石だ。それだけではなく、スポーツ選手、政治家、ジャーナリストなど、将来日本のために活躍するであろう若者に対して惜しみなく、数え切れない支援をしている。勝ち馬に乗ることを嫌い、育ったら独り立ちさせている。日本にとって多大なる貢献をしている。まさに後藤新平のいう、お金も事業も人材も残している、私にとって理想の経営者の一人である。
私は「理想とする経営者像」を構築しながら生きている。自分が見本となり、後輩経営者が育ち、日本中に広がっていけば良いと考えている。理想の経営者とは、持続可能な成長企業を経営し、社員を健康面や人格面、経済面で充実させ、日本のために良き人材を残せる。そんな人物だと思う。私も理想の経営者に少しでも近づけるように日々精進し続けたい。